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Top / 日本学校健康相談学会発表資料

日本学校健康相談学会第5回学術集会 一般口演発表資料

児童自らが心因性身体症状を言語化できるための支援 ― 確認スキルを用いた養護教諭の関わり ―

江川 律子

妙高市立新井南小学校 養護教諭

キーワード:心因性身体症状 言語化 確認型応答

1 はじめに
 近年様々な教育関係者の中で、児童生徒の自分の思いや考えを表現する力と、人と関わりあう力の育成が願われている。筆者は養護教諭として執務する35年間に、幾人かの不登校・保健室登校・保健室頻回訪問の児童・生徒との関わりがあった。それら児童・生徒の問題は、自分の気持ちを表現できれば、解決の方向に向かうのではないかと考え続けていた。筆者はそれら問題を予防するための試みとして、児童自らが自由に自己表現できる力の育成を目指し、学級担任と連携した〈対話法〉の原則と確認型応答の習得トレーニングを実践している(江川,2007)。児童間、担任・筆者と児童の信頼関係が持続するため、学級経営によい効果があり、不登校・保健室登校問題の予防になるとわかった。

 筆者は新任の学校で一人の不登校の生徒と出会った。その当時は、筆者自身が対応の仕方をはじめ、その問題を理解できなかった。更に次の勤務校では、腹痛、頭痛などを訴えながら、保健室へ繰り返しやってくる児童がいると気づいた。しかし筆者は、児童の行動の意味が理解できなかった。
 筆者は、平成2年(1990)に杉浦守邦氏のヘルス・カウンセリングに出会った。それら身体症状を心身症として捉え、心因性身体症状と、それに伴う不登校・保健室頻回訪問などを、問題となる行動として見ることを学んだ。その後筆者は、保健室で訴える児童の身体症状を、問診しながら知り得ている当該児童に関する情報を手がかりに、心因性・器質性であるか概ね区別し見立てをするようにした。同時に児童の表情など観察しながら、痛む部位へ手を当て、三木とみ子氏の指導によるタオルケットで包む方法などでラポートを形成しながら、安静に休ませた。この時、心因性身体症状であると見た場合、それを消失または軽減させることが、養護教諭にこそできる役割であると考えた。
 このことが筆者の課題となり、長年の執務の中核となって現在に至っている。その支援のため、ベーシックエンカウンターグループ他、人との関わりを体験的に学ぶカウンセリング学習の場に身を置き、筆者自身の在りようを見つめ、言葉がけを工夫するなど、試行錯誤を繰り返してきた。更に杉浦氏(1992)は、「心因性ではないかと疑われたとき、適切な言葉かけを行って感情の明瞭化をはかることが鍵となる。そのテクニックの練習が不足している」と、ヘルス・カウンセリングでの養護教諭の陥りやすい欠点として述べている(p.13)。これは、筆者にとっても例外ではなかったが、1997年に知った〈対話法〉の原則と確認型応答により、ようやく成功した。その研究の一端を、ここに紹介する。

2 方法
 筆者は、児童自らが心因性身体症状を言語化し、感情の明瞭化を図る鍵となる言葉がけとして、〈対話法〉の原則と確認型応答を2003年から用いた。「自分の考えや気持ちを言う前に、相手が言いたいことの要点を、相手に言葉で確かめる」これが浅野(2008)が提唱するコミュニケーション技法(通称、〈対話法〉)の原則である。対話法では、この確認する行為のことを確認型応答と呼んでおり、カウンセリングの傾聴技法を簡略化したスキルの一種である。確認型応答は、共感や受容という概念よりも具体的で習得しやすい。必要に応じて確認型応答を対話に用いると、児童との信頼関係・安心で安全な雰囲気・親密さを、即座に構築することに役立つのである。広汎性のあるコミュニケーションのルールであり、テクニックでもある。そのため児童は、安心して本音で自分の考えや気持ちを表明できるのである。この後本文の中では、確認型応答をすることを確認行為と呼ぶ。

3 結果
(1)児童の気持ちに対して言葉で確認行為をした事例(江川,2004)
 運動会の民謡を全校児童で練習する時間が計画された。その練習が行なわれる1校時前に、中学年女子が腹痛を訴えて来室。検温や問診をし、痛みに寄り添いながら、心因性の腹痛との見方をしてみた。4月から他県より転入した児童である。慣れない土地で、地元の民謡の練習に向かう不安があるのかも知れないと筆者は想像した。ここが〈対話法〉の使いどころと判断し、「はじめての民謡がうまく踊れるか心配なんだね」と、児童が話していない部分を言葉にして確かめると、かすかにうなずきがあった。さらに、「いま私(筆者)が言ったことは、『うん、そうそう』と言いたかったということかな?」と確認すると、うなずいた。「言いたいことが合っていたということだね」と筆者は伝え、その後は静かに休養するように勧め、観察を続けた。次の校時には腹痛は消えていたので、「無理でなかったら、練習を見に行こう」と誘った。体育館で一緒に練習を見学。その後、級友に囲まれていたので筆者は離れた。この対応について、担任に情報として伝えた。その後の来室はない。

(2)肯定的な言葉による確認行為に共通する態度
 筆者は、手厚い看護を心がけながら背景を想像し、2007年から肯定的な言葉で確認し始めた。例えば「もう少し今より仲良くなれたらいいなと思う友達がいるんだね」「もう少し今よりわかるようになれたらいいなと思う勉強があるんだね」などである。また、より開かれた確認行為として「あなたの今いるところで、こうなったらいいのになぁと思うことがあるのね」を試みた。この言葉かけの語尾は、疑問形となる場合もあった。この言葉かけの後、児童の微妙な表情の変化を見逃さずに観察した。そして「何かあるんだね。秘密は必ず守るから教えて」と続けた。すると児童自らが、気がかりに思っている教科や友だちのことが語られ始めた。筆者は児童から語られる内容や気持ちに、確認型応答を用いてレスポンスし、寄り添うよう努めた。それから筆者は身体症状の訴え方を継続観察し、タイミングを逃さず教育活動に戻っていけるよう支援した。

4 考察とまとめ
 筆者は心因性身体症状を訴える児童と対した時、症状を誘発させた何らかの心理的原因を探る。また何らかの不安、緊張などが起こり、情動葛藤、感情の高ぶりがあったと想像し、感情の明瞭化を図る。筆者が児童の内に無意識に秘めている感情の高ぶり解消の支援をすれば、症状は消去させることができると考える。つまり児童自らが自分の気持ちに気づき、それを言語化することができれば、痛みの伴う身体症状は消えていく。そして教育活動に戻ることができるのである。児童自らが心因性身体症状を言葉にしていく過程を支援する。筆者の(2)の試みから、児童は気持ちを含めた自分の言いたいことを、ためらわずに語るようになった。このことから筆者は、情動体験を抑圧し心因性身体症状を訴えている児童との心理的距離を縮めるためには、潜在意識に近づく肯定的な言葉かけが必要だとわかった。筆者は日常の人との信頼関係構築に務め、保健室へ来室する児童と即座により深い信頼関係が構築される確認型応答を併用したい。そして今後も、これらの研究実践を継続していきたい。

参考文献 浅野良雄(2008)カウンセラーの態度と技法を確認型応答という概念から考察する試み、足利短期大学研究紀要、第28巻、pp.61-66
江川律子(2004)学校教育における〈対話法〉の実践、ヘルスサイエンス研究、第8巻1号、pp.63-66
江川律子(2007)養護教諭の職務の特質と保健室の機能を生かした健康教育への取組-担任と連携を図りながら児童の自己表現力を身につけさせる活動の試み-、研究収録「耀き」平成18年度第28号、新潟県養護教員研究協議会
杉浦守邦(1992)健康教室、臨時増刊・別冊、ヘルス・カウンセリングの進め方2、東山書房


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Last-modified: Wed, 06 May 2009 19:55:05 JST (2847d)
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